今回は、2018年にクラシスホームが出版した書籍『ストーリーのある家づくり』より、住まわれてから約3年半ほど経過した「くらしの真ん中に使い勝手の良いキッチンが構える住まい」をご紹介致します。
N邸
ご主人/30代後半
奥様/30代前半
長女/小学2年生
次女/幼稚園年長
三女/2歳
余計なものがないすっきりとした住空間―訪れた人がそんな第一印象を抱くN様邸。
モノが多すぎて管理できないことが嫌だったため、N夫婦が思い描いたのは、「モノは最低限しか置かない」シンプルなくらしでした。
設計にあたっては、奥様が「いつかこんな家に住みたい」と書きためていた手帳が役に立ちました。
長く使い続けても飽きのこない、使い込むほど自分たちに合ったものに変わっていくもの。
そのような視点で材質や色合い、製品を取り入れてきました。
それを基にご主人が大まかな設計図を引き、ディティールは奥様に確認しながら夫婦二人三脚でつくりあげていきました。
家づくりのプロセスも、探究熱心なふたりにとって楽しいものでした。
理想的なガルバリウムの外壁を見つければ車を停めて観察し、「こんな風に仕上げを」とクラシスホームの担当に伝えました。
とにかく「シンプル」で「ずっと使いたい」と納得したものだけを追求し続けてきたN夫婦。建材などは自社規定のもので建てるハウスメーカーが多いなかで、「柔軟性のある会社に任せることができて良かった」とのこと。
こうして、壁と床の接触面の巾木の寸法や階段や高さ、踏み面の幅、手すりの外径や質感など、細部にまでこだわった理想の家が完成しました。
夫婦二人三脚つくりあげてすっきりとした住空間。
ピカピカに磨き込まれたキッチンが食を慈しみ、くらしを楽しむ家族の時間を見守っています。
「家で過ごす時間が長いのは妻」と、作業時間に応じたスペースを割り当てて設計を組み立てていったところ、キッチンとサニタリースペースをメイン、その次にリビングという間取りになりました。
リビングの間取りにも、N様の設計ポリシーの「シンプル」な考えがしっかり反映させれています。
リビングにも2階の子ども部屋にもおもちゃは少し。また、つくりつけの収納は設けず、日頃からできるだけ物を置かないように意識することで、広々とした空間を保っています。
おもちゃに頼らず、お子さんたちはお絵描きや将棋をしたり、自分たちで考えたごっこ遊びをしたりと遊び上手。たまに散らかしても片付けさえも遊びになり、「仕事から疲れて帰ってきても、げんなりすることはありません」と、ご主人は微笑みます。
物が少ない空間は、子どもたちの創意工夫する力を磨いてくれます。
必要なスペースを考え、組み立てていく中で、「廊下はいらないね」となり、必ず全員が使用する玄関を広くつくりました。
かつては玄関先で家族が渋滞してしまうことと自転車の置き場がなく雨ざらしになるのが、N夫婦の悩みの種でした。それが、この家では土間とリビングを引き違いで仕切っており、オープンにすれば、子どもたちが並んで腰かけて靴を履くことができ、両手に買い物袋をさげて帰ってくる奥様も置き場に困ることがありません。
自転車に至っては、家族分の台数がしまえる余裕をもたせました。
また、「土間に出す靴はひとり1足と決めています」と、奥様。そのほか靴はすべて奥のシューズクローゼットへ収納しています。「モノは最低限しか置かない」というN家の流儀は、土間やリビングだけでなく、家全体で徹底されています。
たとえば、クローゼットには扉をつけていません。
「扉があることで何でも詰め込んでしまいモノが増えていく。本当に必要なら後から付ければ良い」という考えです。
子どもたちの衣類は、生活動線を考えてタオル類とともに1階のサニタリースペースへ。
「結局、シンプルにつくっておけば、維持していくのも楽だと思うんです」と、ご主人。
長い目で見た家づくりで、伸びやかなくらしを満喫しています。
「家族みんなでこの作業台を囲んでお料理をしたかったんです。」
子どもたちと一緒に、パンを捏ねるのは日常です。
初夏はシロップづくりのために梅のヘタどりをしました。
対面キッチンが主流の中で壁づけのキッチンを選択したのは、作業台を調理の中心に据えたかったから。これは、かつての住まいでダイニングテーブルを作業台として活用していた経験から生まれましたが、結果、想像していたとおりのくらしになりました。
家を建てるときに決めた「モノは最低限しか置かない」という信条は、キッチンにも活かされています。
シンクの上は吊り戸棚は設けず“見せる収納”に。棚の上にはデザイン性のあるカッティングボードやホーロー製ポットが並び、自然素材のリネンが彩りを添えます。
どれも使い込まれた味わい深いものとなり、家族の歴史をひとつまたひとつと見守っています。
とにもかくにも本当に長く使いこなせるものだけを選んでいるので、必要最低限のモノしか置いていないのです。
例えば、竹ざるは野菜などサラダの水切り用だけでなく、鍋料理の際に切り野菜の盛り皿になり、寿司桶は手まき寿司や散らし寿司の他、素麺を入れる器に大活躍。
「今、欲しいのはお櫃。できれば温めも電子レンジではなく蒸し器でやりたいんです」と奥様。
どんな調理も家電がやってくれる時代に、昔ながらの炊事へと原点回帰。パントリーには、今年の冬に子どもたちとつくったお味噌が。
この家になってから、これまで以上に食への意識が変わったというご主人。
「パンづくりでもどんなものからできているのか、梅干しもお味噌も家でつくれるんだよって子どもたちに伝えていきたい」と、奥様は考えます。
最近は、奥様が作業台で何かし始めると、子どもたちが自然と集まってくるようになりました。
台の上に手が届かない下の娘さんたちは、ご主人がDIYでつくった踏み台に乗ってお手伝い。「外食もいいですが、子どもたちは家で食べるご飯が一番だって言っています」と嬉しそうに語るご主人。
“全力のキッチン”とご主人が名づけたこの場所で、食をとおして家族の幸せを醸成しています。
一人一人、ライフスタイルが違うように、
家づくりもふたつとして同じものもありません。
「憧れ」や「想い」を形にする家づくりでは、
世界に一つだけのストーリーが生まれます。
作品としての施工実例と違い、今まで見せてこなかったその先の暮らし。
それぞれライフスタイルの違うご家族のとても豊かな暮らし方を
ふんだんに覗ける一冊となっています。