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身体にフィットし、包み込むような背もたれが特徴のシェルチェアや、一本脚の上にまるで花が咲いたようなデザインのチューリップチェアなど、曲線美が印象的なプラスチック製の椅子。インテリア好きならずとも、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
今や日本のインテリアショップでもお馴染みとなった、1940〜1960年代生まれのこれらのデザインは「ミッドセンチュリー」と呼ばれ、今なお世界各国で親しまれています。
そこで今回は、アメリカ、イギリスをはじめヨーロッパ各地でミッドセンチュリー期に作られたヴィンテージ家具を専門に扱う「パームスプリングス」のオーナー長﨑海彦さん、美和さん夫妻をインタビュー。
前編では、ミッドセンチュリースタイルが誕生した背景や、日本の住居との調和などについて、掘り下げてうかがいました。ミッドセンチュリー家具が、ぐっと身近になるお話が満載です。
※解説されている内容は、個人的な見解を含みます。
“足し算”から“引き算”へ。機能美を備えたミッドセンチュリースタイルの誕生
――「ミッドセンチュリー」とは、どのようなインテリア、家具を指すのでしょうか?
長﨑さん
「皆さんがイメージしやすいミッドセンチュリー家具の象徴といえば、日本でも広く浸透しているイームズ夫妻のシェルチェアではないでしょうか。ミッドセンチュリーの家具は、一般的に1950年代前後、1940〜1960年代ごろに誕生したデザインの物を指します。
ミッドセンチュリースタイルのルーツを辿ると、1920〜30年代のドイツに起源を見ることができます。第一次世界大戦後に設立された「バウハウス」という美術学校において、華美な装飾を排し、シンプルな機能美に重きを置いたモダンデザインが芽吹きます。その流れはヒトラーの権力下から逃れたデザイナーたちにより、西欧を飛び出してアメリカへと渡り、世界的なモダンのトレンドへとつながりました。アメリカに渡ったモダンの流れは、デザイナーたちの感性と、戦争による新素材や加工技術の革新が合わさり、一気に花開きます。そのシンボルともいえるのが、イームズのレッグスプリントです。戦時中、負傷兵の足を固定していた添え木を改良するという依頼を受けたイームズは、成型合板を用いたレッグスプリントを開発。合板を使うことで曲げる加工が可能となり、かつ強度が保てる木製品を実現したということは画期的な出来事でした。」
――プラスチックなど素材が多様化したことも、さらなる技術進歩の追い風になったのでしょうか?
長﨑さん
「軽量かつ体に合わせた自然な曲線に加工でき、大量生産を可能にしたレッグスプリントの技術は、プラスチック素材に応用することで、さらに可能性を広げていきます。もともとあった“ガラス繊維素材”と“樹脂”の組み合わせをインテリアに応用したのは、イームズが走りだったのではないかと思います。」
――技術、素材の革新は、デザイン性にも影響を与えたのでしょうか?
長﨑さん
「従来、ヨーロッパでは装飾を加えて“足し算”を楽しむというデザインが主流でした。しかし前述の「バウハウス」以降、デコラティブな美術品としてではなく、暮らしの道具として、余分な飾りを削ぎ落としたシンプルなデザインのインテリアに注目が集まるようになります。さらに、ミッドセンチュリー期の素材や加工技術の進展により、一体形成が可能になったことから大胆なデザインが生まれ、樹脂素材などを採用することでポップな色づかいも多用されました。」
公共施設から一般の住空間へ。デザイナーズ家具として日本でも浸透
――ミッドセンチュリーのスタイルが日本に入ってくるのは、どのような時期になりますか?
長﨑さん
「日本の住環境においてミッドセンチュリーが注目され始めたのは、30〜40年ほど前。イームズチェアをはじめ、デザイナーズ家具が一気にトレンドへと上り詰めました。会館や庁舎、空港などといった公共施設において、もう少し早い時期からデザイナーズチェアは出回り始めていて、日本の人々の目に触れる機会も増えていたようです。
ヴィンテージ家具として日本の市場に出回りはじめた頃は、“POPなアメリカのイメージ”への憧れも相まって、FRP(繊維強化プラスチック)という樹脂素材による、色・質感がジェリービーンズに似た「原色系のチェア」が注目されました。その後、次第に社会情勢が安定し、コレクションとしての物から家で使う道具として親しまれるようになると、落ち着いた淡い色合いで、よりシンプルな形の物も求められるようになりました。」
歴史や気候が裏付ける、日本の住空間と異国テイストのミックス
――日本のデザイン業界も、ミッドセンチュリーのモダンスタイルに感化されたのでしょうか?
長﨑さん
「日本のミッドセンチュリーを語る上で外せないデザイナーといえば、柳宗理さんが挙げられます。彼のシンプルで機能性を備えたデザイン、道具としての使いやすさを追求した“用の美”の思想にも、大いに刺激を与えたと思います。
逆の視点でとらえると、例えばアメリカのモダンというトレンドの中にも、日本や中国などアジアの文化は影響を与えていたと考えられます。西欧からアメリカの東へと流入したモダンのスタイルは、次第に西へと広がり、アメリカ西海岸の向こうにあるオリエンタル、極東へと意識が向きます。その証拠に、建築物に東洋の要素が取り入れられたり、インテリアに掛け軸や銅羅があしらわれたりという例も見受けられました。」
――確かに、思い返してみると、幼い頃、実家や親戚の家にあった茶箪笥や照明具に、北欧のテイストに通じる部分があったと感じます。異国文化との交わりというのは昔からあったのですね。
長﨑さん
「建築やインテリアには、地域の気候が大きく影響を与えます。開放的な南国の国民性の人たちよりは、どちらかといえば家で過ごす時間の長い北欧の感覚の方が、日本人にとっては親しみやすいというのも、気候や風土の共通項があるからかもしれません。」
――テキスタイル一つを見ても、日本人が好む少しグレイッシュな色合いは、北欧テイストと重なる部分があります。四季があり、湿気があり、時には少し霞みがかったような空の下では、南国の燦々と降り注ぐ強い太陽光に映える原色系の色よりも、淡い色合いの方が馴染む。そういう側面から捉えても、共通点があるような気がします。
長﨑さん
「そうですよね。家具も同様で、西欧の伝統様式であるデコラティブなテイストよりも、シンプルでモダンな北欧などのミッドセンチュリースタイルの方が、日本人は心地よさを感じるという傾向があると思います。」
新築の家にミッドセンチュリーを取り入れるなら? ポイントは“内と外をつなぐ”意識
――日本で新築を建てる際、ミッドセンチュリー家具を取り入れる時に覚えておくと良いポイントを教えてください。
長﨑さん
「ミッドセンチュリーに心底、惚れ込んでいるという方は、建物自体も含めてすべてをミッドセンチュリースタイルに統一するという方法もあるかもしれません。しかし、気候に合わせた建築という側面や、日本の土地事情などを踏まえると、日本でミッドセンチュリーの家を新築するということは、ハードルが高いと感じられる方もいらっしゃいます。そんな時には、ミッドセンチュリーに見られる、建築の中に“外”を取り入れるという考え方に着目するなど、その空気感を意識すると良いのではないでしょうか。
ミッドセンチュリーのデザインを見ると、例えばアポロ11号による人類史上初の月面着陸に湧いた時代には、宇宙や星、空を連想させるモチーフが多く生まれましたし、時代を問わず花などの植物、自然界の物をデザインした時計や照明なども多く見られます。これは、建築の中に“外”を取り入れようとする考え方の表れです。」
――内と外の境界線を曖昧にするという考え方は、もともと日本古来の住まいづくりにも通じる部分があります。障子を開け閉めすることで家屋の中と庭を一体で考える、外の光や風を取り込むという思考などとも、重なる点があるのではないでしょうか。
長﨑さん
「そうですね。日本の住空間にミッドセンチュリーを取り入れる時には、“内と外をつなぐ”ということを意識すると、違和感なく調和すると思います。」
――お話をうかがっていて、和の落ち着いたイメージや洗練されたテイストと、ミッドセンチュリースタイルの相性の良さを改めて感じました。クラシスホームがつくる新築の家に、ミッドセンチュリーの家具を合わせる時の楽しみ方、アイデアなどがあればお聞かせください。
長﨑さん
「例えば、イームズのチェアシリーズの中から脚が短いタイプの物を選び、座椅子感覚で囲炉裏の周りを囲むというのもアイデアの一つですよね。新築の和室に、部分的にミッドセンチュリーを取り入れるだけで、可能性は無限に広がります。
肝心なことは、ミッドセンチュリーに限らず、好きなテイストの家具やインテリアとの相性、親和性なども踏まえて家づくりを提案してくれるパートナー探しです。クラシスホームのように自由度が高く、多彩なアイデアの引き出しをもとに、様々な角度から家づくりを考えてくれるパートナーとなら、“新築×ミッドセンチュリー”の新しい魅力が創造できると思います。」
――ありがとうございます。それでは引き続き後編では、クラシスホームとのコラボレーションによって実現した、ミッドセンチュリーな住空間について、具体的な事例を交えながらお聞かせください。
【Profile】
長﨑海彦さん、美和さん夫妻/株式会社MODERN ANTIQUES代表(パームスプリングス・オーナー)
高校時代からアメリカ文化への造詣が深かった海彦さん。海彦さんが好きなミッドセンチュリー、ヴィンテージ家具を扱うインテリアショップなどへ一緒に出かけていた美和さんも、次第にその世界観に惹かれるように。2人で行ったアメリカ旅行の際、現地のフリーマーケットでヴィンテージ家具に触れる内、いつしかこの家具を持って帰りたいという衝動に駆られるようになった2人。海彦さんは勤務先を退職し、美和さんと共に「パームスプリングス」をオープン。現在は、娘さんと3人で、丘の上に建つミッドセンチュリーハウスでの暮らしを満喫中。
株式会社MODERN ANTIQUES
1940〜1960年代のミッドセンチュリー期に作られたヴィンテージ家具を販売する家具・インテリアショップ「パームスプリングス」を運営。年に数回、アメリカ、ヨーロッパへ渡り、一点一点厳選して仕入れたヴィンテージ家具を、自社の工房で丁寧にリペアして販売。そのリペア技術の高さにも定評がある。2005年、北名古屋市にて創業。1年半後に大須へ移転し、2011年から現在の地へ。「家具からはじめる家づくり」をコンセプトに、ミッドセンチュリースタイルの戸建て新築、リノベーションなど家づくりを手がける「ミッドセンチュリーハウス」も経営。